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逢瀬日記

ご主人様との出会いから今迄。 後天性被虐趣味なわたしの手記。

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『アネモネ』

「アネモネが見頃ですよ。」

聞き覚えのない声にどきりとした。
隣に居たのは、見知らぬ男性で、
清潔な白い半袖シャツにグレーのスラックスを穿いていた。
30代半ばかと思われた。
くせのないさらりとした黒い髪に、
銀色のフレームの眼鏡が知的な印象を与えた。
風の通りの良い晴れやかな秋の日だった。
植物園の花壇の傍を何気なく歩いていたときに
その声は突然散った花びらのように私に舞い降りてきた。
いつから傍に居たのだろう、
そのように連れ立って歩いていることが
はじめからそうしていたように思われる自然さだった。
「アネモネ、ですか」
何か言葉を返すのが礼儀にかなっている気がして、
慎重に言葉を選んだ。

男性は何か少し考えるふうに手を顎に添えて、囁くように言った。
「アネモネの花言葉を知っていますか」
「いえ」
「幾つかありますが、私が最も好んでいるのは、
「儚い恋」です」
儚い恋、はかないこい、ハカナイコイ・・・
その言葉の音の響きが、とても重要な意味を持ったもののように
思われて、
私はその言葉を紡ぎ出した唇をじっと見つめた。

「温室に行きませんか」と、男性は、
植物園の離れの温室を見つめた。
見知らぬ男性からの誘いに戸惑ったものの、
その声のトーンは、ナンパといった浮ついた感じは無く、
むしろ、そうせざるを得ないような、厳かな、
いたたまれないような気分にさせた。
そしてそれは全く私に不快感を与えないのだった。
私は無言でその男性の後を同じくらいの速度で
ついていった。
私たちに話せるような、共通したなにかは
ひとつとして無いように思われた。

その小さな温室にひと気はなく、
周囲は木陰で薄暗かった。
正確に管理された温度と湿度の中、
ミニバラや、カトレアやデンファレが
小ぶりな鉢に、それぞれ思い思いの花を
鮮やかな色で咲かせていた。
きれいですね、とか、よく咲いていますね、とか、
何か話そうかと思ったけれど、
この不思議な空気を壊しそうで、
結局何も言えずにただ花びらを見つめていた。
そうするほかなかった。

男性は手にしていた鞄から、
黒く染めた麻縄の束を静かに取り出した。
男性の手元を見つめて、私は、
これから何かが始まるのかもしれないと思ったけれど、
それに対して恐怖感や拒否感のようなものは一切なく、
この状況を自分が受け入れていることが
不思議で仕方無かった。

男性は、ひとことも洩らさないまま、
私の背後に立ち、胸にロープを添わせた。
乳房の上側の付け根と、下側の付け根に
平行に縄を張り、きゅっと締めつけ、
息つく間もなく、私の身体から自由を奪った。
それはあまりにも、手慣れていて、
その行為に特別な事象という印象を与えなかった。
勿論、私はこのように見知らぬ男性についていくことも、
縛られたりすることも初めての経験だったけれど、
演劇のシナリオみたいに、
あらかじめそうするように決められていたかのようで、
また、迷いが一切感じられない彼の手さばきは
私に疑問や戸惑いを与えなかった。
私は縛られる者という役割を理解しようと努力し、
また、締められる感覚に没頭した。
縛られて、立ちすくんだまま、
こちらを見ているように咲くカトレアを見つめた。
後ろにきつく固定された手は、
むしろはじめからそこにあって、
本来の場所にもどったかのように錯覚した。
なぜか少し懐かしいような感じがした。
彼の思う形に私は造形され、
温室の中の花のひとつになった気がした。

どれぐらいの時間が流れていたのか分からない。
すごく長いような気もするし、
一瞬のことのようにも思える。
縄は、私の身体を締めつけていたことを忘れたように
わずかな時間で解かれ、
だらりと力なくしなだれ、その意思を失った。
しゅるしゅると纏められ、
再び男性の手に、束として収まった。

突然、先程の、はかないこい、という声色が
頭の中で再生された。
手が、自由になるのがぎこちない気持ちのまま、
彼に声をかけた。
「アネモネ、お好きなんですか?」
彼は、私がそこに居ることに、
先程まで彼自身が縛っていたということに、
特に何の感情も持ちあわせていないという感じの口調で答えた。
「特に好きというわけではありません。
アネモネは、キンポウゲ科に属していて、
同じキンポウゲ科にはトリカブトもあるんですよ」
「トリカブト・・・」
「毒のある花はとても綺麗です」
「はい」
「君の持つ毒の味を知りたい」
彼は耳に唇を近付け、そう言葉を洩らした。

私は、温室を出る彼の後を追った。













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